進化し続ける肺がん手術
増えている肺がん、その治療は───
肺がんは年々増加傾向であり、現在がん死亡数の第一位です。近年の画像診断技術の進歩により早期肺がんが診断される頻度が増加しています。
また、それと同時に進行期の肺がんとして診断される患者さんもやはりいます。早期の肺がんに対しては、より身体に負担が少ない治療を、進行期の肺がんに対しては、より治癒が期待できる治療を選択する必要があります。今回は、この増えている肺がんに対し進化し続けている手術法についてお話しします。
肺がんは年々増加傾向であり、現在がん死亡数の第一位です。近年の画像診断技術の進歩により早期肺がんが診断される頻度が増加しています。
また、それと同時に進行期の肺がんとして診断される患者さんもやはりいます。早期の肺がんに対しては、より身体に負担が少ない治療を、進行期の肺がんに対しては、より治癒が期待できる治療を選択する必要があります。今回は、この増えている肺がんに対し進化し続けている手術法についてお話しします。
解説医師紹介
呼吸器外科 主任科長
玉里滋幸
日本外科学会外科専門医、日本呼吸器外科学会専門医、日本胸部外科学会専門医会員、 京都大学医学博士
01. より身体への負担が少ない方法へ!
肺がんを切除する手術には、開胸手術、胸腔鏡(きょうくうきょう)手術、ロボット支援手術があります。患者さんの身体の負担がより軽減される方法が実現されています。
開胸手術
約20cmの皮膚切開で、肋骨の間の筋肉を切開して拡げ、手術医が直接目で見て、胸の中に手を入れて行います。進行期の肺がんや特殊な操作が必要な場合は開胸手術をお勧めしています。
胸腔鏡手術
1cmから3cm程度の皮膚切開でつくる穴(ポート)を1から3か所程度作成して、それを利用して内視鏡と専用の手術器具を胸の中に入れて、テレビ画面を見ながら行う手術方法です。内視鏡の性能が向上したことにより2000年頃から普及し、現在では全国で最も多く採用されています。
ロボット支援手術
胸腔鏡手術をさらに進化させた手術方法で、胸腔鏡手術とほぼ同様の皮膚切開で、内視鏡と専用の手術器具をロボットの腕(ロボットアーム)に接続し、この内視鏡とロボットアームを手術医が「コンソール」という言わば運転席から操縦する手術方法です。手術器具に手首のような関節機能があり、人間の手や腕のように自在に動かすことができるため、より細かな操作が可能です。ロボット支援手術での肺がんの治療は2018年4月から保険診療が可能となり、それから徐々に普及しつつあります。
02. より小さい範囲の手術も可能に!
右の肺は上葉(じょうよう)、中葉(ちゅうよう)、下葉(かよう)に、左の肺は上葉と下葉に、「葉(よう)」の単位で分かれています。肺がんに対する治療としての肺切除の範囲は、葉の単位で切除する「肺葉切除術」と、それ未満の範囲の切除である「区域切除術」あるいは「楔状(せつじょう)切除術」があります。
以前は、肺がんに対する標準治療は「肺葉切除術」とされてきましたが、近年は早期の小さな肺がんに対しては「区域切除術」あるいは「楔状切除術」でも、従来の「肺葉切除術」と同じ根治性(再発がない状態にできる見込み)がある可能性があることがわかり、現在は患者さんの肺がんの状態に応じて「肺葉切除術」「区域切除術」「楔状切除術」の中から最も適切な術式を選択することになりました。
以前は、肺がんに対する標準治療は「肺葉切除術」とされてきましたが、近年は早期の小さな肺がんに対しては「区域切除術」あるいは「楔状切除術」でも、従来の「肺葉切除術」と同じ根治性(再発がない状態にできる見込み)がある可能性があることがわかり、現在は患者さんの肺がんの状態に応じて「肺葉切除術」「区域切除術」「楔状切除術」の中から最も適切な術式を選択することになりました。
Q. 手術方法はどうやって選択するの?
A. 進行期の肺がんや特殊な操作が必要な場合は、開胸手術をお勧めしています。皮膚切開がやや大きいですが、痛み止めとして硬膜外麻酔などを使用して、できるだけ痛みがないように工夫します。それ以外の通常の肺がんに対しては、胸腔鏡手術あるいはロボット支援手術で行います。前述のとおり、ロボット支援手術は細かな操作が可能ですので、「区域切除術」で、よりその有用性を発揮する傾向があります。もちろん、ロボット支援手術での「肺葉切除術」も、精度が高くて身体に負担の少ない手術が可能です。
03. 小さな病変を高精度で特定!
小さな肺がんに対する新しいマーキング方法「RFID」
小さな早期の肺がんに対しては、病変を含めて肺を小さく切り取る「区域切除術」「楔状切除術」が望ましい場合が多くあります。ここで問題になるのは、病変が小さいために、病変の場所を認識できないことです。病変の場所がわからなければ「あてずっぽう」に肺を切り取らなければならず、病変をうまく切除できない危険性が生じます。そこで病変の場所を手術中に認識できるため、新しいマーキング方法を開始しました。Radiofrequency Identification (RFID) という方法で、これは手術の前にあらかじめ病変の近傍にマイクロチップを入れておき、それを手術中に探知機で検出して病変の場所を特定するというものです。RFID は身近にもさまざまな場所で利用されており、具体例としては電子マネー、カードキー、セルフレジ、回転ずしなどで利用されています。
ロボット支援手術と併用し、より精密正確な手術が可能!
「ロボット支援手術とRFID」でできること
ロボット支援手術は小さな早期肺がんに対する「区域切除術」でその力を発揮します。
しかし、ロボット支援手術では、外科医の手や指が胸の中に入らないので、病変を触って場所を特定することがまったくできません。RFIDはロボット支援手術特有の弱点である「さわることができない」点を補うことができますので、小さな早期肺がんに対して、より精密正確な手術療法が可能となります。
ロボット支援手術による肺がん治療を行っているのは、静岡市内では静岡病院だけ、静岡県内では静岡病院を含めた数施設だけです。
RFID を行っているのは、東海エリアでは静岡病院だけです。
ロボット支援手術は小さな早期肺がんに対する「区域切除術」でその力を発揮します。
しかし、ロボット支援手術では、外科医の手や指が胸の中に入らないので、病変を触って場所を特定することがまったくできません。RFIDはロボット支援手術特有の弱点である「さわることができない」点を補うことができますので、小さな早期肺がんに対して、より精密正確な手術療法が可能となります。
ロボット支援手術による肺がん治療を行っているのは、静岡市内では静岡病院だけ、静岡県内では静岡病院を含めた数施設だけです。
RFID を行っているのは、東海エリアでは静岡病院だけです。
〈広報誌「体温計」第161号より〉