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泌尿器科ロボット支援手術


腹腔鏡手術から発展したロボット支援手術は、多関節を持ち、自由度が高く術者の意のままに動くロボットアームをお腹の中に入れ、3Dカメラで見ながら操作することで、腹腔鏡手術の「傷が小さく回復が早い」「出血が少ない」という利点をそのままに、腹腔鏡手術の欠点である「鉗子操作が難しく時間がかかる」という欠点を克服しています。とくに、針糸を使用して縫合する操作は腹腔鏡とロボットとで所要時間と質に大きな差が生じます。
当科では、以下の疾患、術式にロボット支援手術を行っています。いずれも縫合操作が含まれる術式ということもあり、腹腔鏡よりロボット支援手術の方が患者さんの負担が少なく術後QOL(クオリティ・オブ・ライフ = 生活の質)も良好です。
(2013年7月~2025年3月)
対象疾患 手術術式 導入 通算件数
前立腺癌 前立腺全摘術 2013 564
腎癌 腎部分切除術 2017 106
膀胱癌 膀胱全摘術 2019 69
腎盂尿管移行部狭窄 腎盂形成術 2022 8
過去に腹部の大手術を経験し腹腔内に高度癒着が予想される方、高度の肺機能障害のため気腹(炭酸ガスを腹腔内に吹き込んで手術するスペースを広げる操作)ができない方は、ロボット支援手術ができない場合があります。

前立腺全摘術

前立腺内に限局し転移のない早期前立腺癌に対して、前立腺と精嚢を切除し、膀胱と尿道を縫合します。癌の悪性度、広がり(MRI画像および針生検の陽性本数から推定)から、所属リンパ節に転移している疑いがあると推定される方には、拡大リンパ節郭清を同時に行います。逆に、前立腺被膜(前立腺の外側を包む膜)近くには癌がないと推定される方には、勃起神経を含む「神経血管束」を切除せずに残す「神経温存手術」を行うと、術後早期の腹圧性尿失禁が減少し、勃起力温存にも寄与します。
当科では原則的に腹部に6ヶ所の孔を開け、腹腔内を経由する経腹アプローチにて頭低位25度で前立腺全摘を行っています。手術時間は3-4時間、出血は少量で輸血リスクはほぼありません。手術翌日から食事と歩行を開始し、尿道カテーテルを術後6日目に抜去します。入院期間は10日です。
前立腺癌の治療については「前立腺癌の治療方法いろいろ」もご覧ください。

腎部分切除術

小径腎癌(一般に4cm以下)に対して、癌の部分のみを切除し腎そのものは残す「腎部分切除術」を行っています。腎臓の血流を一時的に止めている間に癌を切り取り、切った断面を止血してから血流を再開します。腫瘍の位置、サイズ、腹腔内癒着の有無などにより、腹腔を経由する「経腹アプローチ」と腹腔を経由しない「後腹膜アプローチ」を使い分けています。
当院のロボット支援腎部分切除術は、断面の止血に特殊な電気メスを用いた「ソフト凝固」と止血用貼付剤「タコシール」を使用し、腎実質縫合による圧迫操作を極力行わないのが特徴で、部分切除術の合併症の一つである術後再出血リスクが低く、実質縫合を行う術式より術後腎機能が良好です。入院期間は5-6日です。
腎部分切除術については「腎癌の最近の手術方法」もご覧ください。

膀胱全摘術

経尿道的手術で切除しきれない筋層浸潤膀胱癌に対して、膀胱を切除し、尿の出口を新たに作成する「尿路変更(尿路変向)」を行います。男性では前立腺・精嚢を、女性では子宮と膣の一部を同時に切除します。術前術中所見で尿道にも癌が疑われる場合には尿道も切除します。
原則として所属リンパ節を広く切除(郭清)しますが、高齢者や体力の余裕のない方、合併症の多い方など、長時間の手術に耐えられそうにない場合には郭清しない場合もあります。
原則として手術前に抗癌剤を点滴投与する術前化学療法を行います。ddMVAC療法、GC療法、G-CBDCA療法などから選択されますが、癌の組織型や体力、腎機能などにより術前化学療法を行わずに手術することもあります。
尿路変更として、回腸導管、尿管皮膚瘻、新膀胱(代用膀胱)のいずれを選択するか、それぞれに一長一短がありますので、主治医と相談して決めていただきます。
術後早期開腹プログラム「ERAS」を導入しており、硬膜外麻酔を用いた術後疼痛対策、制吐剤定期投与による嘔気対策を行ったうえで絶食期間短縮、早期離床、リハビリ支援を行い、従来3-4週を要した入院期間を短縮し、術後約2週間での退院を目指しています。

腎盂形成術

腎盂と尿管との間が狭いため、腎臓に尿が溜まって痛みや腎機能低下を生じている方に対して狭い部分を切除し、形を整えて尿の流れを改善します。
腎盂形成術については「腎盂尿管移行部狭窄に対するロボット支援腎盂形成術」もご覧ください。

泌尿器科領域にて、2024年までにすでに保険診療上認められているロボット支援手術術式は、当院で行われている4術式以外にもあり、副腎良性腫瘍への副腎摘除術、腎癌への腎摘除術(全摘)、腎盂尿管癌への腎尿管全摘が保険適応となっています。しかし、これらの縫合操作のない手術では、従来の腹腔鏡手術に比べてロボット支援手術での手術の質や手術時間、合併症に大差がない割に、ロボットを準備する時間が余計にかかり、コスト上昇(ロボット支援手術の方が使い捨ての器具が多く費用がかかる)も問題になります。当科に割り当てられたロボット支援手術枠数の上限も考慮し、今のところロボットではなく腹腔鏡手術で行っています。

泌尿器科とロボット支援手術
医療機器の開発や改良によって、約 30年前から体腔鏡⼿術(腹腔鏡⼿術)が発達し、各分野で開腹⼿術に替わって盛んに⾏われる時代になりました。泌尿器科領域への腹腔鏡の普及はかなり早く、当科でも現泌尿器科主任科長の野口が着任した 2003 年から腹腔鏡⼿術を導⼊し、腎腫瘍、副腎腫瘍の⼿術の第⼀選択が腹腔鏡になりました。

その後、体腔鏡⼿術での鉗⼦を⽤いた縫合が難しく時間がかかるという⽋点を克服するため、様々な⾃動縫合器が発展し、⼿術時間短縮と確実な縫合に役⽴っています。しかし、泌尿器科分野では、⾃動縫合後に残る⾦属針が尿と接触すると結⽯ができる核になってしまうため、今でも吸収性縫合⽷(⼀定期間後に体内で溶けて消失する糸)を使い、⼀針ずつ縫合しなければいけません。

前立腺癌に対する前立腺全摘術では、前立腺を摘出した後に膀胱と尿道とを縫合します。2006年に腹腔鏡での前立腺全摘術が保険適応となった後も、腹腔鏡での縫合操作の難易度の高さから、開腹手術の2倍かかる手術時間や術後尿失禁の多さなどの欠点から普及がなかなか進みませんでした。早期にロボットでの前立腺全摘術を導入した施設で腹腔鏡とロボットの成績に差が出たことから、2012年4月に他科に先んじてロボット支援前立腺全摘術が保険適応となり、その後急速にロボット導入施設が増えました。

国内でのロボット支援手術はまず泌尿器科での前立腺全摘術から保険適応となり、2018年に消化器外科での直腸癌手術が保険適応となるまでは泌尿器科しかロボット支援手術を行うことができなかったのが、その後徐々に他診療科にも広がり、盛んに行われるようになっています。