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前立腺癌の治療方法いろいろ


前立腺針生検にて癌が見つかった場合、癌の悪性度や陽性となった割合、癌マーカー(PSA)の値、腹部CT、骨盤MRI、骨シンチグラフィーなど画像検査所見を参考に、現時点での癌の広がりを推定し、適切な治療法を選択します。癌が前立腺内に留まるか、前立腺外に広がっているかで治療方針が異なります。他に年齢、体力、他の病気の有無、患者さんの希望を考慮して治療法を選択します。
複数の治療の選択枝がある場合、それぞれの治療法の利点・欠点を医師から説明し、理解していただいた上で、患者さん御本人の希望を一番優先して治療方針を決めていくことになります。
また、癌そのものの治療以外に、排尿障害や頻尿、疼痛などの自覚症状を改善させる薬を併用することがあります。
(1)手術(根治的前立腺全摘術)
前立腺と精嚢を切除し、膀胱と尿道とを繋ぎ直します。予想される癌の状況から、リンパ節へ転移している可能性がある場合、所属リンパ節を同時に切除します。
【利点】
  • 癌が前立腺内にとどまっていれば、根治(前立腺癌が完全に治ること)が期待できます。
  • 切除した組織を詳しく調べると癌の広がりを確認でき、追加治療の必要性がすぐ判明します。
  • 切除後のPSAは癌が完全切除できればほぼ0になります。もしPSAが上昇してくれば再発だということがわかりやすいです。
【欠点】
  • 10日間程度の入院が必要です。
  • 開腹手術や全身麻酔に伴う合併症の危険があります。
  • 術後に尿失禁や勃起機能障害を生じる可能性があります。
  • 75歳以上の方には手術より他の治療方法を推奨しています。
根治手術を希望されるほとんどの方に、手術支援ロボット(ダビンチ)を用いたロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘術を行います。お腹の中で行われることは開腹手術と同じ内容ですが、傷が小さいので痛みが少なく、出血も少ないため、術後の回復が早い利点があります。また、内視鏡で拡大して細かい手術ができるため、尿失禁予防や勃起神経温存に優れています。
ロボット手術の際には頭を低くした体位(頭低位)を取る必要があるため、眼圧の高い方や脳動脈瘤がある方にはロボット手術ができません。過去に腹部手術を受けたことがあり、高度の癒着が予想される場合にも、ロボット手術ができない場合があります。
手術中に大量出血や周囲臓器損傷が生じた場合、腹腔鏡やロボットでの対処には限界があり、術中の経過により途中から開腹に切り替える場合があります。

【手術時の勃起神経温存について】
 前立腺被膜に沿って網目状に走る「勃起神経」を両側とも切除してしまうと勃起できなくなります。片方だけでも残せば勃起力が残る可能性がありますが、年齢による衰えもあり、必ず勃起力が残るとは限りません。癌の存在場所が手術中に肉眼で確認できず、切除した組織を顕微鏡で詳しく調べないとわからないため、神経を残すか残さないかを術中に判断することはできません。
神経を残す(温存する)かどうか、片側だけ残すか両側とも残すかについて、画像検査、リスク分類、御本人の希望を元に手術の前にあらかじめ決めておくのですが、以下の点を念頭に慎重に考える必要があります。

○ 勃起神経を残すことで、術後の尿失禁がより少なくなります。
△ 前立腺の被膜周囲に癌細胞が浸潤していた場合に、神経を残すことで癌が残ってしまい、再発の危険が高くなる可能性があります。
△ 生検、画像検査で全ての癌の場所が正確にわかるわけではありません。生検では片側だけに癌があると診断された方でも、実際に切除した前立腺を調べてみると、両側に癌が確認されることがしばしばあります。
△ すなわち、癌がないと術前に判断して神経を残した結果、実際には癌が存在したため、癌を取り残してしまったということがあり得ます。
△ 神経に対する障害を最小限にするために、神経周囲で電気での凝固止血ができません。そのため、出血がなかなか止まらずに出血量が増えることがあります。手術時間も少し長くなります。
(2)放射線治療(外照射)
癌細胞が正常細胞に比べ放射線に弱いことを利用し、体外から放射線を当てて癌細胞を死滅させます。毎日通院して治療します。再発する危険性の高い方には、放射線治療の前後にホルモン療法を併用することがあります。
【利点】
尿失禁や勃起力喪失など、急激な副作用が少ない。施行している間の体への負担が軽い。

【欠点】
周囲の正常組織(膀胱、尿道、直腸、皮膚など)にも一部の放射線が当たり、悪影響があります。放射線を当てている期間だけの一時的な症状が多いのですが、長期にわたって続く場合もあります。
【放射線外照射の主な副作用】
膀胱や尿道への影響:頻尿、残尿感、排尿痛、血尿
直腸への影響:下痢、肛門痛、嘔気、食欲低下、肛門出血
皮膚への影響:発赤、疼痛、着色、硬化
  • 放射線の当たった範囲の血管が細くなり、傷が治りづらくなります。前立腺・膀胱・直腸の手術を将来やりにくくなります。
  • 数%の方に、難治性の尿路出血や肛門出血、萎縮膀胱など重篤な副作用をきたすことがあります。
  • 血流が少なくなってくることにより、数年後に勃起機能が落ちてくる場合があります。
  • 取った組織を調べるということができないので、癌の広がり、悪性度、治療効果を直接確認できません。
当院で行われている放射線外照射は「強度変調照射法(IMRT)/強度変調回転照射(VMAT)」です。コンピュータ制御により照射範囲、照射強度を詳細に調整することで周囲臓器への障害を減らし、副作用を少なく維持しながら放射線照射量を増量することができます。健康保険が適用されます。数週間に渡って土日祝日を除く平日毎日の通院が必要です。1回の照射に5~10分かかります。
前立腺癌については、一回の照射量を増やして照射回数(日数)を減らす「寡分割照射法」がむしろ有用であるという報告が最近増えています。当院でも通常分割照射70~78Gy/35~39回のほか、中程度過分割照射57~60Gy/19~20回が可能であり、希望の方に行っています。健康保険内で行うことができます。
合計5回と非常に少ない回数で治療が完結する「体幹部低位放射線治療(SBRT)」も2016年に限局性前立腺癌に対して保険適応となりましたが、導入している施設がまだ限られており、当院では行っていません。
前立腺に限局した早期癌だけでなく、骨盤リンパ節転移を伴うD1期や、全身治療で転移巣が消失またはコントロールがついた際の前立腺局所治療も、状況次第では放射線外照射の適応となります。
特別な外照射として、粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)があります。5階建てビルくらいの装置が必要となり、静岡がんセンターなど全国25ヶ所の施設で行われています。通常の外照射と比べ周囲臓器に対する副作用が少なく、治療回数がやや少ない利点があります。2018年4月から健康保険適応となりました。
(3)放射線治療(小線源療法)
微量の放射線を発生する粒(線源)を体内に永久に埋め込む治療法です。小線源療法単独では比較的おとなしい前立腺癌に向いているとされ、悪性度の高い癌には単独ではあまり行われず、外照射との併用になります。
線源の埋込みは短期入院(2泊3日程度)で行います。下半身麻酔をかけ、会陰部(肛門と陰嚢の間)から1×5mmほどの小さな線源を数十個挿入します。
副作用は外照射とほぼ同様です。約1年に渡って体内から放射線が発生し続けますので、その間は子供や妊婦との長時間の接触を避ける、線源が体内にあることを記したカードを携帯する、などの注意が必要です。
この治療がさほど主流でないこともあり、治療が可能な施設が全国的に少なく、当院でもできません。近隣だと静岡県立総合病院で行われていましたが、2023年3月に新規の治療開始を終了しました。現在静岡県内で小線源療法ができるのは、静岡がんセンター、聖霊三方原病院のみです。ほかに県外にも小線源療法を盛んに行っている施設があります。希望の方には紹介状を作成します。
(4)ホルモン療法(内分泌療法)
前立腺癌のほとんどが男性ホルモンによって進行することが知られており(ホルモン依存性癌)、男性ホルモンを減らすことで前立腺癌を縮小したり進行を食い止めたりすることができます。前立腺だけでなく、転移した前立腺癌にも効果を発揮します。治療後に癌は消失するのではなく、勢いを失った状態となっており、治療を中断するとまた増殖してきます。
男性ホルモンは精巣(睾丸)から95%、副腎から5%が産生されます。ホルモン療法には手術、注射、内服の3通りがあります。すべてのホルモン療法に共通して、のぼせ、発汗、勃起機能障害、肥満、糖尿病になりやすくなる、動脈硬化などの副作用があります。女性化乳房(乳房の腫脹、乳頭の疼痛、着色など)、骨粗鬆症、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、静脈塞栓症などをきたすこともあります。体重増加、筋肉減少により転倒リスクが増えます。気力の減退、認知力低下などを感じることがあります。
ホルモン療法を開始するとほとんどの患者さんのPSAが下がり、病状が改善します。しかしホルモン療法を続けている間に、ホルモンと関係なく増殖する癌(ホルモン非依存性癌=去勢抵抗性前立腺癌)が出現すると、治療効果が薄れて癌が進行(再燃)します。効果のある期間は数ヶ月から十年以上まで様々です。
【ホルモン療法の種類】
① 男性ホルモン放出ホルモンを減らす薬剤(商品名リュープリン、ゾラデックス、ゴナックス)
1ヶ月に1回または3ヶ月に1回、肩または腹部に皮下注射します。
○ 薬を中止すれば元に戻ります。
△ 定期的に打ち続けないと効果がなくなります。
△ 注射部位に痛みを生じたり、しこりができることがあります(とくにゴナックス)。
△ まれに肝障害をきたします。
△ 開始直後に症状が一時的にひどくなる場合があります(リュープリン、ゾラデックスのみ)。

② 精巣摘出術
男性ホルモンを出す主な器官である精巣(睾丸)を手術で切除します。
○ 薬をずっと注射し続ける手間(通院、痛み)がなく、通院が困難な方にも向いています。
○ 長い目で見れば費用が安い。
△ 短期入院と麻酔・手術が必要です。一旦切除してしまうと元には戻せません。

③ 男性ホルモンが癌細胞に働くのを妨害する薬剤:ビカルタミド、フルタミド(商品名オダイン)、アビラテロン(ザイティガ)、エンザルタミド(イクスタンジ)、アパルタミド(アーリーダ)、ダロルタミド(ニュベクオ)
 内服薬です。単独では効果がやや弱いため、①や②と併用されます。
○ 薬を中止すれば元に戻ります。
○ ①や②が効かなくなってから追加すると効果が出る場合があります。
△ 肝障害が出ることがあります。

① と②は効果がほぼ同一です。どちらか一方だけを選択してもらいます。
最大限の男性ホルモン抑制効果を狙って、①と③、あるいは②と③を併用する治療を行う場合があります。

ホルモン療法そのものが骨密度を低下させ、骨折リスクを増加させてしまいます。さらに、治療開始時点で骨転移がある患者さんは、骨折や骨の痛みを生じやすいとされています。骨折をきたすと活動範囲が狭まったり、意欲や免疫力が低下するなど、生活の質(QOL)を損ない、生存期間が短くなってしまうというデータもあり、骨折の予防が重要です。
そのため、骨転移のある患者さんにホルモン療法を行う場合に、ゾレドロン酸、デノスマブ(商品名ランマーク)を月1回定期的に注射することで、骨折や骨転移に伴う痛みを予防するようにします。
また、骨転移のない前立腺癌患者さんでも、ホルモン療法中に骨密度が低下した場合、骨密度を補って骨折を予防する薬剤(商品名プラリア、リクラストなど)を使用することもあります。
(5)抗癌剤(点滴)
癌の増殖を押さえる薬剤(ドセタキセル、カバジタキセル)を定期的に点滴します。
毒性がやや高く身体への負担もそれなりにあるため、前立腺癌と診断されてすぐに使用することはありません。ホルモン療法が効かなくなってきた時に、抗癌剤を追加して癌の進行を抑えます。
高齢、体力がない、腎機能が悪い場合などに、抗癌剤をお勧めしない場合があります。
特別な遺伝子異常のある前立腺癌の場合にのみ使用できる抗癌剤が2020に保険適応となりました。BRCA遺伝子変異が確認された前立腺癌患者さんにPARP阻害剤のオラパリブ(商品名リムパーザ)が使用できるようになっており、体への負担が比較的軽く、効果も高いとされています。BRCA遺伝子変異を持つ前立腺癌患者さんは年齢により2-8%と少ないのですが、若くして前立腺癌を発症した患者さんには8%程度と比較的高率であることが報告されています。
(6)ラジウム223
ラジウム223(商品名ゾーフィゴ)は体内でカルシウムと同じように働き、とくに癌の骨転移に集まりやすい薬剤です。点滴され血液を介して骨転移巣に取り込まれたラジウム223がその場所でアルファ線を発生し、体の内部から骨転移内の癌細胞を攻撃します。骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌に対して2016年に保険適応となりました。月1回の点滴を6ヶ月続けて治療します。抗癌剤や新規ホルモン剤との併用が保険で認められていないため、使うタイミングが難しい薬剤ですが、骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌の患者さんで抗癌剤や新規ホルモン剤を希望しない方や、使用して効果が薄れた方などで使う機会があります。
(7)無治療経過観察(待機療法)
前立腺癌を放置すれば必ず増殖し、いずれ浸潤・転移をきたしますが、悪性度が低く少量の前立腺癌は進行が遅く、数年以上に渡ってほとんど増大しないことがあります。特に高齢者では無症状のまま天寿を全うされる方も多くいらっしゃいます。PSA値、病理所見、画像所見から進行がよほど遅そうだと予想された場合、今すぐ治療を開始せずに経過を観察することも選択枝の一つです。高齢の方だけでなく若い方でも、比較的おとなしい、ごく少量の癌であれば、希望によりこの治療方法も選択できます。
癌の増殖速度によっては、予想より急速に進行してしまって、局所での治療(手術や放射線治療)のタイミングを逃すことがあります。そのため、経過観察中にはPSA測定(血液検査)、直腸診や針生検を定期的に行い、癌の状態を監視します。癌が増大したり、癌の悪性度が悪化してきた場合に、治療を開始するかどうか改めて検討します。
前立腺癌に対して、健康保険の内外で様々な治療が行われています。当院にて保険適応の範囲で行っている治療方法について解説してきましたが、保険適応の治療法の中にも、当院では行っておらず、他院でのみ受けることができる治療もあります。そのような他院で行われている治療があなたに可能かどうか、および、効果、副作用、費用についての詳しい説明を、実際に行っていない当院でお話するのには限界がありますので、詳しく聞きたい場合には、実際にその治療を行っている施設を受診して相談いただく必要があります。希望があれば他院宛の詳しい紹介状を作成することができます。当院での予約を残した状態でのセカンドオピニオンも可能です。ただし、セカンドオピニオンを待っている間に当院での治療を開始することは治療の選択肢を狭めてしまうことになりますのでお勧めしません。
治療を受けた病院にて治療後のフォローアップもお任せすることになります。治療だけ別の病院で受け、その後そちらに行かずに当院にのみ通院することは原則的にできませんが、事情によっては検討させていただきますので御相談ください。